曖昧な言葉を具体的にする|「新鮮」「さまざま」を伝わる紹介文へ
紹介文には、便利だけれど中身の見えない言葉が集まりやすいところがあります。「新鮮」「さまざま」「こだわり」「ゆったり」「人気」「歴史を感じられる」。書き手の気持ちは伝わりますし、間違ってもいません。ただ、その紹介文を読む人は、行くかどうか、自分の好みに合うか、歩いて行けるかを決めたくて読んでいます。
港町の食堂を案内する、こんな一文があったとします。
> 港町の新鮮な魚を使った、さまざまな定食をご用意しています。
一読ではすらっと読めます。けれど、よく見ると「さまざまな定食」が何を指すのかは、まだ一つも見えていません。来店を決めたい人は、結局そこで何が食べられるのかを、自分で思い浮かべることになります。隠れていた中身を出すと、こうなります。
> 港町の新鮮な魚を使った、刺身定食や煮魚定食、日替わりの海鮮丼をご用意しています。
「新鮮な魚」も「ご用意しています」という丁寧さも、そのままです。変えたのは、「さまざまな」の中にしまわれていた料理名を、読み手に見える場所へ出したところだけ。曖昧な言葉は、書き手の気持ちを伝える一方で、読み手に中身を思い浮かべる作業を残しやすい言葉です。
評価は伝わっても、動くための材料が渡っていない
曖昧語で読み手が立ち止まるのは、書き手の評価は届いても、読み手が動くための材料が渡らないからです。
> 駅から近く、アクセスも便利です。
丁寧で、悪い印象はありません。ただ、歩いて行くか決めたい人は、何分かかるのか、坂や乗り換えがあるのかが分からないままです。「便利」という評価は伝わっても、判断する材料が手元に残りません。
> 駅から歩いて10分ほど、ゆるやかな坂を上った先にあります。
便利かどうかは、読み手が自分で決められるようになりました。 「近く」「便利」という評価の代わりに、距離と道のようすという、隠れていた材料を出しただけです。徒歩の分数は一例で、実際に合わせて書けば十分です。誇張した数字を入れる必要はありません。
言い換えるのではなく、隠れていた中身を出す
直し方は、曖昧な言葉を上品な言葉に置き換えることではありません。その言葉が指していた中身を、読み手に見える形で補うことです。
> こだわりのコーヒーをお出ししています。
「こだわり」が何を指すのかは、読み手が推測します。豆なのか、淹れ方なのか、産地なのか。こだわっている中身を出すと、推測は要らなくなります。
> 注文を受けてから一杯ずつ豆をひいて入れるコーヒーをお出ししています。
程度を表す言葉も、同じように直せます。
> ゆったりとくつろげる店内です。
どうゆったりなのかが読み手任せで、自分が居心地よく過ごせるか想像しにくい一文です。そう感じられる理由を出します。
> テーブルの間隔を広くとり、ソファ席もある店内です。
「お出ししています」「店内です」という結びも丁寧さも、変えていません。評価の言葉を、それが指していた事実に置き換えただけです。 言い換えではなく、隠れていた情報の補充だと考えると、何を足せばよいかが見えてきます。
どんな歴史か、何が見えるかを書く
観光の紹介文には、何を指すのか見えにくい言葉がくり返し出てきます。何を具体化するかは、その言葉が指す中身で決まります。
> 歴史を感じられる古い町並みが残っています。
どんな歴史か、どのくらい古いのかを、読み手が推測します。これだけでは、見に行く価値の見当がつきません。
> 明治のころに建てられた商家が、いまも軒を並べています。
いつごろの、何が残っているのか。時代と対象を出しただけで、残っているという趣旨は変えていません。
展望台からの眺めも同じです。
> 展望台からは、目の前に絶景が広がります。
「絶景」で立ち止まります。何が見えるのかが分からず、自分が見たい眺めかどうか判断できません。
> 展望台からは、対岸の山並みと、港に並ぶ漁船が見渡せます。
「展望台からは」という始まりはそのまま、「絶景」を、実際に見える対象に置き換えました。曖昧語を直すときは、その言葉が約束していることを、読み手が確かめられる具体に下ろします。
数字を盛らず、できないことも添える
具体化には、できることを書くだけでなく、できないことを添える形もあります。読み手が前提を自分で補わずにすむからです。
> お車でも気軽にお越しいただけます。
親切な一文ですが、店に停められる前提で来てしまい、着いてから困ることがあります。来やすさを伝える趣旨は残したまま、誤解を生む空白を埋めます。
> お車の場合は、店から歩いて5分のコインパーキングをご利用ください。専用の駐車場はありません。
「専用の駐車場はありません」は、紹介文を弱める一文ではなく、来てから困らないための材料です。 対象外や例外は、隠すものではなく、読み手が安心して動くための情報になります。
評価の言葉のなかでも、数字を足したくなるものには注意が要ります。
> 地元でも人気の一品です。
「人気」がどれくらいなのかを、読み手が補います。ここで来店数のような数字を盛ると、確かめようのない誇張になり、かえって信用を損ないます。
> 常連のお客さまが昼によく注文される一品です。
「一品です」という結びはそのまま、未確認の数字は足していません。具体化は、大きく見せることではなく、読み手が信じられる手がかりを渡すことです。数字を出すなら正確に、出せないなら、確かめられる事実や代表例にとどめます。
あえて曖昧に残す場所もある
ここまで読むと、曖昧な言葉はすべて直すもののように見えるかもしれません。けれど、紹介文には、あえて曖昧なまま残したほうがよい場所もあります。
> また来たくなる、海辺の町です。
看板やページの冒頭に置く、こうした一言は、町全体の方向性をやわらかく伝えるための言葉です。ここで「何度来ても新しい発見がある」などと細かく具体化すると、かえって重くなります。読み手も、ここでは立ち止まりません。曖昧さが、そのまま余白として働いているからです。
具体化するのは、料金、所要時間、メニュー、見どころのように、読み手が行動や好みを判断する材料が要る場所です。語感をそろえたい、雰囲気を出したいといった書き手の好みで、キャッチコピーまで律儀に言い換える必要はありません。直すのは、中身が見えないせいで読み手が見当をつけられなくなる場所だけで十分です。
紹介文を読み返すときは、評価や程度を表す言葉に目を留めて、「読み手はこれで何を判断できるか」を確かめてみてください。判断できないなら、その言葉が指していた中身を一つ出す。それだけで、推測の手間はずいぶん減ります。次回は、文がつながりすぎて切れ目を失う「が」「で」でだらだらつなげないを見ていきます。
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