漢字とかなのバランスを整える|硬すぎず区切りの見える表記にする
小さな内科や小児科の待合室に、再診の流れを書いた貼り紙があります。
> 再診の方は受付で診察券をご提示のうえ、体温測定を実施し、問診票の記入が済みましたら番号札をお取りになってお待ちください。
誤字はありません。一読すれば流れます。ただ、「体温測定を実施し」「問診票の記入が済みましたら」と、自分がする動作が漢字の名詞でかたまっています。そのため、これは自分がする動作なのか、どの順なのかが、読み手の中で一拍だけ立ち止まります。漢字が続いて文が黒く見える分、ひと続きの動作が一つずつに割れて見えにくくなる場所です。名詞のかたまりを、動作に戻してみます。
> 再診の方は、受付で診察券をお出しになり、体温を測って、問診票を書き終えたら番号札を取ってお待ちください。
診察券・体温・問診票・番号札・待つという情報も、その順番も、お願いする丁寧さも変えていません。変えたのは表記だけ、名詞でかためていた動作を自然な動詞に戻しただけです。 それでも、誰が何をするのかが先に見えて、流れを追いやすくなりました。
名詞で固めた動作は、動詞に戻す
漢字が多くて硬い文を見ると、動作が名詞になっていることがよくあります。「体温測定を実施し」「記入が済みましたら」「ご確認をお願いします」のように、本来は動きである言葉を、名詞にして「する」「行う」で受ける形です。書くほうには手早くまとまって見えますが、読むほうは、その名詞が自分のする動作なのかを一度ほどいてから受け取ります。
直し方は、名詞に固めた動作を、もとの動詞に戻すことです。「体温測定を実施し」は「体温を測って」、「記入が済みましたら」は「書き終えたら」、「ご提示のうえ」は「お出しになり」。動作を動詞に戻すと、誰が何をするのかが文の表に出てきます。 漢字の密度が下がるのは、その結果です。漢字を減らすこと自体が目的ではありません。
文を細かく分ける必要もありません。さきほどの貼り紙も、一文のまま、名詞を動詞に開いただけで読みやすくなりました。動きを名詞でかためている言葉を見つけたら、声に出して動詞へ戻せるか試してみてください。
名詞が連なるところに、区切りを入れる
もう一つ、漢字でつまずきやすいのが、名詞が切れ目なく連なる場所です。薬の説明シートに、こんな一行があったとします。
> 解熱剤頓用後発熱再確認のうえ受診をご検討ください。
短いので読めてしまいます。けれど「解熱剤/頓用後/発熱/再確認」と漢字の名詞が切れ目なく並び、どこまでが一つのまとまりかを、読み手が決めることになります。 熱をもう一度測り直すのか、熱が続くのか。区切りの取り方しだいで、意味まで揺れます。
> 解熱剤を頓用したあとも熱が下がらないときは、受診をご検討ください。
名詞の連なりに助詞を入れて区切りを見せ、「頓用後」は「頓用したあと」、「発熱再確認のうえ」は「熱が下がらないときは」と動作に開きました。解熱剤を使い、そのあと様子を見て、必要なら受診を検討する。情報も丁寧さもそのままです。名詞を詰めたままにすると、区切りの判断が読み手側に残ります。助詞や動詞は、その判断を書き手の側で引き受けるための道具です。
やわらかくしようとして、中心まで崩さない
ここまでは漢字が多い側の話でしたが、逆に振りすぎても読みにくくなります。小児科で保護者に渡す服薬メモに、やさしく見せようとして、こう書いたとします。
> おくすりはしょくごにのんでください。
やさしい印象ですが、今度は「おくすり/しょくご/のんで」の切れ目を、目で探すことになります。意味の中心になる言葉までかなにすると、区切りの手がかりが消えます。 中心だけを漢字に戻せば落ち着きます。
> お薬は食後にのんでください。
「薬」と「食後」だけ漢字で立て、「のんで」はかなのままにしました。全部を漢字にも、全部をかなにもしていません。中心は漢字で見せ、流れを作る言葉はかなで支える、その分担です。
反対に、流れを作る補助の言葉は、かなに開くと軽くなります。「ネット予約をご利用頂く事で、待ち時間を短縮する事が出来ます」は、「頂く事」「出来ます」まで漢字が続いて詰まって見えます。「ネット予約をご利用いただくと、待ち時間を短くできます」と、中心ではない言葉だけ開けば、敬体も内容も保ったまま流れがやわらぎます。
患者さんが探す呼び名は、そのまま残す
開く・閉じるは、読みやすさだけで決めない場面もあります。医療の案内では、患者さんが薬局や受付で実際に探す言葉があるからです。
> お薬の記録は、お持ちの薬の手帳でご確認ください。
「薬の手帳」とやわらげても意味は通ります。けれど、患者さんが窓口で渡され、声に出して探すのは「お薬手帳」という決まった呼び名です。
> お薬の記録は、「お薬手帳」でご確認ください。
読みやすさのために開くのではなく、患者さんが実際に探す正式な呼び名は、そのまま残します。 お薬手帳と同じく、予防接種・問診票・診察券のような、窓口で口に出す言葉も崩しません。直すのは、誰が読んでも一度立ち止まる名詞のかたまりであって、探す手がかりになっている言葉ではありません。
ちょうどよい硬さは、どこに置く文かでも変わります。掲示の見出しなら「休診日における急患は、連携医療機関にて対応いたします」で収まりますが、患者さんに読んでもらう案内文では「休診日に急なご病気のときは、連携している医療機関で対応します」と、「における」「にて」を開いたほうが近く感じられます。同じ内容でも、見出しか、本文かで開く度合いを変えます。
漢字とかなのバランスは、見た目を整える作業のようでいて、中身は意味の区切りを見せる作業です。読み返して硬いと感じたら名詞を動詞に戻し、ぼんやりすると感じたら中心語を漢字で立てる。一語ずつ役割を確かめると、迷いは減ります。次回は、文より大きい単位の話として、段落の分け方と話のまとめ方を見ていきます。
出す前に、さっと校正
「この使い方、合っているかな」と迷ったら、書いた文章をLINTOに貼って校正してみてください。誤字や表記のゆれ、読みにくい言い回しまで、無料でまとめて見直せます。メールを送る前、記事を公開する前、SNSに投稿する前のひと確認に、どうぞお役立てください。
この連載の記事 前の回:「が」「で」でだらだらつなげない 次の回:段落の分け方と話のまとめ方 文章力編の入口:わかりにくい文章の特徴と直し方 LINTO Tips の一覧はこちら。