削れる言葉を削る|回りくどい一文を意味へまっすぐ届かせる
社内の業務改善を提案する書類に、こんな一文があったとします。
> 本施策の導入により、問い合わせ対応にかかる時間の短縮を行うことが可能になると考えております。
誤字はありません。丁寧に書こうとしていることも伝わります。それでも、この提案でいちばん伝えたい「対応時間が短くなる」という中身は、「短縮を行うことが可能になる」という言葉の奥に包まれています。読み手は「短縮」「行う」「可能になる」を順に開けてから、ようやく何が起きるのかにたどり着きます。一拍遅れる文です。包みを開けてみます。
> 本施策を導入すると、問い合わせ対応にかかる時間を短縮できると考えています。
言っている中身は同じです。提案している効果も、断定を避けた言い方も、敬体も変えていません。動作を包んでいた「短縮を行うことが可能になる」を動詞「短縮できる」に戻し、「導入により」を「導入すると」にしただけです。削れる言葉とは、外しても意味が変わらず、ただ中身を一枚多く包んでいる言葉です。 この回では、その包みを見分けて外す技術と、外してはいけない言葉の線引きを見ていきます。
名詞に包まれた動作を、動詞に戻す
提案書では、進め方や効果を丁寧に書こうとして、動作を名詞にしてから別の言葉で受け直すことがよくあります。「短縮を行う」「変更を実施する」「測定を行う」のような形です。いったん「短縮」という名詞を作り、そこに「行う」を足すと、何をするのかが一段奥に置かれます。
読み手は、名詞になった動作を、頭の中でもう一度動作に戻しながら読みます。動作はできるだけ動詞のまま見せたほうが、中身に早く届きます。 たとえば「効果の測定を行います」は、「測定」を作ってから「行う」で受け直しているぶん遠くなります。
> 導入の一か月後に、効果の測定を行います。
これを動詞に戻すと、こうなります。
> 導入の一か月後に、効果を測定します。
いつ何をするか(一か月後に効果を測る)は変えていません。動作が前に出ただけです。名詞に「行う」が付いた形を見つけたら、その名詞をそのまま動詞に戻せないかを試すと、文がひとつ軽くなります。 ただし、実施項目の一覧に作業名として「効果測定を行う」と並べる場面では、作業名としてそのまま残してかまいません。動作ではなく項目の名前として扱っているからです。
「できます」を、後ろにずらさない
実現できることや体制を説明するとき、「することが可能です」という言い方になりがちです。間違いではありませんが、語数が多いぶん、いちばん伝えたい「できる」という結論が後ろにずれて見えます。
> この体制なら、既存の人員で運用することが可能です。
これは「できます」と同じことを言っています。
> この体制なら、既存の人員で運用できます。
新しい増員が要らないという含み(既存の人員で)も残したまま、「できる」が前に出ました。同じ中身なら、結論を後ろにずらさず、先に見せたほうが読み手は早く受け取れます。
「という」も、似た働きで文をひとつ遠くすることがあります。
> コストが増えているという問題が、提案の背景にあります。
ここでの「という」は、前の説明と「問題」の間にただ挟まっているだけです。なくても「問題」が直前の説明をそのまま受けられます。
> コストが増えている問題が、提案の背景にあります。
背景として挙げている事実も、文の重さも変わっていません。一方で、同じ「という」でも残すべきときがあります。
> 「まず小さく試してから判断する」という進め方を提案します。
この「という」は、かぎかっこの中身をひとつの「進め方」として束ねています。外すと「試してから判断する進め方」がつながりにくくなり、かえって読み直しが生まれます。削れるのは、なくても文が自然につながる「という」だけで、前の言葉を名詞へ束ねている「という」は残します。
範囲を限る言葉まで削らない
ここまでは外す話でしたが、削ると意味が変わる言葉もあります。装飾を減らす作業と、内容を減らす作業は別物です。次の一文には、外してよい包みと、外すと約束が変わる言葉が同居しています。
> 繁忙期につきましては、一部の対応が翌営業日となる場合がございます。
「につきましては」「となる場合がございます」と続くため、結局どうなるのか(翌営業日になることがある)が語尾の連なりの先に置かれ、読み手は一度かみ砕いてから受け取ります。話題を示すだけの「につきましては」を「は」に、過剰な敬語「ございます」を素の敬体「あります」にすると、こうなります。
> 繁忙期は、一部の対応が翌営業日になる場合があります。
丁寧さは保ったまま、装飾だけが減りました。ここで残した「一部の」と「場合があります」は、削ると約束が実態より強くなる言葉です。 試しに、これを「繁忙期は、対応が翌営業日になります」まで削るとどうなるか。すべての対応が必ず翌営業日になる、という約束に化けてしまいます。「一部の」は範囲を、「場合があります」は確実さを支えていて、これは包みではなく意味そのものだからです。
範囲や条件を限る言葉は、ほかにも「原則として」「目安」「必要に応じて」などがあります。文を弱くしているだけに見えても、責任の範囲を正確にしています。削る前に、その言葉が話題を示すだけの装飾なのか、それとも範囲や条件を支えているのかを見分けます。装飾なら外し、意味を支えているなら残します。
どこから外すか、迷ったら
削れる言葉が重なった一文に出会ったら、目についた言葉から消すより、外す前後を並べて読んでみるのが確実です。外したあとに意味も条件も丁寧さも減っていなければ、それは外してよい包みで、約束が強くなったり配慮が消えたりしたら、それは意味を支える言葉です。
整える対象は、装飾の役割しか持っていない言葉に絞ります。語尾や言い回しを好みでそろえても、読みやすさはほとんど変わりません。手を入れる価値があるのは、動作が名詞の奥に隠れて、読み手が中身に届くまで一拍待たされる場所です。
回りくどいと感じたら、まずいちばん伝えたい動作を探して、それが動詞のまま前に出ているかを見てみてください。名詞の奥に包まれていたら、動詞に戻す。範囲を限る言葉は残す。次回は、その中身をもう一段はっきりさせる曖昧な言葉を具体的にするを扱います。
出す前に、さっと校正
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