LINTO Tips

推敲の順番|大きいところから直すと文章は速く伝わる

書いたばかりの文章を読み直しても、引っかかる場所はなかなか見つかりません。中身も流れも、頭の中ではもうつながっているからです。少し時間を置いてから読むと、急に「ここ、分かりにくいな」と気づく。読み直しがうまくいくかどうかは、初めて読む人の目で見られるかどうかで決まります。

焼き菓子店「ひだまり」のお知らせで考えてみます。店主が自分の言葉で書いた一文です。

> いつもひだまりの焼き菓子をご利用いただきありがとうございます。今月は仕入れの都合で新作の販売を見合わせており、店内の改装も少しずつ進めております。なお、6月10日(火)と11日(水)は、設備の入れ替えのため臨時休業をいただきます。

誤字はありません。一読すれば、すらすら読めます。それでも、このお知らせを受け取った人がいちばん知りたいのは「いつ閉まるのか」です。その休業日が、お礼と新作と改装の話を抜けた先、「なお」のあとまで出てきません。読み手は近況をひととおり読んでから、自分に関係する一行を探して戻ることになります。推敲とは、書いたあとの自分ではなく、初めて読む人になって読み直す作業です。

まず直すのは、言葉より用件の置き場所

読み直すとき、つい目に入った言い回しや読点から手をつけたくなります。けれど、いちばんの読みにくさが「用件の置き場所」だったとき、言葉をいくら整えても読みにくさは残ります。さきほどのお知らせの近況を、言い回しと読点だけ直してみます。

> 今月は仕入れの都合により新作の販売を見合わせております。店内の改装も、少しずつ進めております。なお、6月10日(火)と11日(水)は、設備の入れ替えのため臨時休業をいただきます。

「都合で」を「都合により」にし、長い一文を切って読点を足しました。一文ずつは少し整って見えます。それでも、読み手が知りたい休業日は相変わらず「なお」の先のままです。文の表面をなでても、用件が後ろにあるという読みにくさには手が届きません。 だから先に見るのは、言い回しではなく、何をどの順で渡すかです。

この文章で読み手にいちばん渡したいことを一つ決め、それが先に届く並びになっているかを確かめます。このお知らせなら、渡したいのは休業日です。

> いつもひだまりの焼き菓子をご利用いただきありがとうございます。6月10日(火)と11日(水)は、設備の入れ替えのため臨時休業をいただきます。今月は仕入れの都合で新作の販売を見合わせており、店内の改装も少しずつ進めております。

お礼の一文は、あいさつとしてそのまま残しました。休業日の文をお礼のすぐあとへ前に出し、新作と改装の近況は背景として後ろへ送っただけです。情報も丁寧さも減らさず、述語も「いただきます」のまま変えていません。動かしたのは運ぶ順番だけで、読み手は最初に休業日を受け取れます。

大きい層から、小さい層へ下りる

直す順番は、用件の並び、段落のまとまり、一文の中、という大きい層から小さい層へ進めます。小さい層から先に直すと、磨いた一文ごと並べ替えることになり、手をかけた時間がむだになります。 さきほども、言い回しを整えた一文を、順番を入れ替えるときに結局あとから動かしました。先に休業日を前へ出しておけば、近況の言葉を直すのはそのあとで十分です。

並びそのものが読みにくさの原因のときは、接続語のつけ替えでは届きません。「なお」を「また」に替えても、休業日が後ろにあることは変わらないからです。つなぎ言葉は文と文の関係を見せる目印で、用件の並びを作り直す道具ではありません。語ではなく、文の位置を動かします。

一文を直したら、前後を読み直す

用件の並びと段落が決まったら、最後に一文の中へ入ります。ここで見落としやすいのが、一文を直したあと、その前後とのつながりを読み直すことです。ひだまりのブログ記事の一段落で見てみます。

> 焼き上がりの時間に合わせて来てくださるお客さまが増えたので、平日は午後2時ごろにもう一度クッキーを焼くことにしました。週末は混み合うため、こちらは今までどおり朝の一度だけになります。

前半の一文が長いので、二つに分けて軽くします。ところが分けたあと、次の文の「こちらは」が何を指すのか、一瞬あいまいになります。平日の話か週末の話か、読み手が確かめに戻ることになりました。一文を直した結果、となりの文に新しい引っかかりが生まれたわけです。

> 焼き上がりの時間に合わせて来てくださるお客さまが増えました。そこで平日は、午後2時ごろにもう一度クッキーを焼くことにしました。週末の焼き上がりは、混み合うため今までどおり朝の一度だけになります。

長い一文を「お客さまが増えた」「だから午後にもう一度焼く」の二文に分け、そのうえで指す先がぶれないよう、「こちらは」を「週末の焼き上がりは」に置き換えました。焼く回数も曜日も変えていません。つながりは一文の中ではなく、前後の文との間に生まれます。手を入れた一文は、その前後とあわせて見ます。

必要な直しと、好みの直しを分ける

どこを直すかにも、線引きがあります。直す価値があるのは、読み手の行動に関わる場所です。語順を好みでそろえても、読みやすさはほとんど変わりません。

> 焼き菓子の詰め合わせは、なるべく早めにご予約ください。

この「なるべく早めに」は、読む人によって今日とも一週間後とも受け取れます。いつまでに動けばいいのかを読み手が自分で見積もることになり、予約が遅れるもとです。だから「お渡し日の3日前までにご予約ください」と直します。一方、「ご予約ください。焼き菓子の詰め合わせは」と語順を入れ替えても、読み手の行動は変わりません。直すのは行動に関わる場所で、語順の好みは読みやすさを変えない、この差で見分けます。

もう一つ、推敲には逆の落とし穴があります。短く・きれいにしようとするあまり、読み手に渡したかった具体まで削ってしまうことです。

> 焼き菓子は卵とバターを使わずに作っているので、卵や乳製品が苦手な方にも選んでいただけます。

これを「体にやさしい材料で作っているので、いろいろな方に選んでいただけます」と縮めると、軽く読めそうに見えます。けれど「卵とバターを使わず」「卵や乳製品が苦手な方」という、買うかどうかを判断できる手がかりが、「体にやさしい」「いろいろな方」に薄まります。読み手は、自分に当てはまるかどうかが分からなくなりました。読みやすくなったのではなく、必要な具体が削れた状態です。短くすること自体が目的になると、運ぶ順番ではなく中身に手が伸びます。 削る前に、その情報が読み手の判断に要るかを確かめ、要るなら残します。

この連載では、一文の長さから始めて、主語と述語の距離、係り受け、入れ子、並列、段落のまとめ方まで、読み手が立ち止まる場所を一つずつ見てきました。推敲は、それらをまとめて見直す最後の工程です。書いたものを一度わきに置き、初めて読む人として、用件の並びから一文の中へと下りていく。その目があれば、立ち止まる場所は見つけられます。

出す前に、さっと校正

「この使い方、合っているかな」と迷ったら、書いた文章をLINTOに貼って校正してみてください。誤字や表記のゆれ、読みにくい言い回しまで、無料でまとめて見直せます。メールを送る前、記事を公開する前、SNSに投稿する前のひと確認に、どうぞお役立てください。

この連載の記事 前の回:具体例・数字・エピソードで伝える 文章力編の入口:わかりにくい文章の特徴と直し方 これで文章力編(全20回)は完結です。LINTO Tips の一覧はこちら。