受け身と能動を混ぜない|誰が何をするかが見える文に直す
銀行から届く手続きの案内に、こんな一文が混ざっていることがあります。
> お手続きの書類をご提出いただくと、内容が窓口で確認され、不備がなければ口座振替のご登録が完了します。
誤字はありません。一読すると、すっと流れていきます。それでも、よく見ると主役が文の途中で入れ替わっています。書類を提出するのは自分、では「確認され」るのは誰の動作なのでしょうか。窓口の人が見るのか、それとも自動で処理されるのか。行為をする人が文の表に出てこないので、読み手はそこで一度、誰がするのかを補い直します。運ぶ役割を分けてみます。
> お客さまがお手続きの書類をご提出くださると、窓口の担当者が内容を確認します。不備がなければ、口座振替のご登録が完了します。
情報も丁寧さも、変えていません。受け身の「確認され」を、行為者の見える「窓口の担当者が内容を確認します」に直し、主役が切り替わる手前で文を分けただけです。最後の「ご登録が完了します」は、誰が完了させるかより、完了するという結果のほうが大事なので、状態のまま残しました。受け身と能動の使い分けとは、誰が何をするのかを、読み手に見える位置へ置くことです。
行為者が消えると、次に動く人で立ち止まる
受け身は、誰がするのかを言わずに済ませられる言い方です。それが落ち着く場面もありますが、案内や通知では、隠れた行為者を読み手が探すことになります。とくに引っかかりやすいのが、次に誰が動くのかを伝える文です。
> ご登録の口座で引き落としができなかったため、お引き落としは翌月分とあわせて行われます。
意味は取れます。けれど「行われます」だけでは、引き落とす主体が書かれていません。自分で振り込むのか、それとも当行がまとめて引き落とすのか。通知でいちばん知りたい次に誰が動くのかのところで、読み手は一度立ち止まります。行為者を出さない受け身は、誰が動くのかを文の外へ追い出してしまいます。
> ご登録の口座で引き落としができなかったため、翌月分とあわせて当行が引き落としいたします。
行為者の見える「当行が引き落としいたします」に変えただけです。期日や対象(翌月分とあわせて)も、丁寧さも減らさず、運ぶ順番も保ったまま、隠れていた行為者を表に出しています。
受け身が続いたら、行為者を一つにそろえる
受け身が一つだけならまだしも、二つ三つと続くと、誰の動作かを補う作業も積み重なります。
> お申し込み内容は確認のうえ登録され、完了後にご案内が郵送されます。
「登録され」「郵送されます」と受け身が並ぶと、確認も登録も郵送も同じ当行がするのか、どこかで別の誰かが混じるのかが見えにくくなります。読み手は、行為者を一つずつ補いながら読み進めることになります。続いた受け身は、行為者が一つに定まる能動へ寄せると、一度で分かります。
> お申し込み内容は当行で確認し、ご登録します。完了後、ご案内を郵送いたします。
手続きの中身は同じで、誰がするのかが先に決まりました。続く受け身を能動でそろえると、読み手の補う回数がまとめて減ります。 こつは、ひとつの動作のまとまりを書くあいだ、主語を途中で乗り換えないことです。最初の例も、提出する人(お客さま)から確認される書類へ主役が移ったところで読みにくくなっていました。同じ行為者でひとまとまりを書き、視点が変わるところで文を分けると、誰の動作かを追いやすくなります。
すべてを能動にしなくていい
ここまで読むと、受け身はすべて能動に直したほうがよい、と思えるかもしれません。けれど、それは行きすぎです。結果や状態そのものが主役で、行為者を探す必要のない文は、受け身のままが自然です。
> 普通預金から定期預金へは、毎月25日に自動で振り替えられます。
ここで読み手が知りたいのは、振り替わるという結果です。誰がするのかを探して立ち止まることはありません。これを「当行が毎月25日に、普通預金から定期預金へ自動で振り替えます」と能動に直すと、「当行が」が前に出すぎて、かえって説明的になります。手を入れるのは、行為者を確かに探してしまう文だけ。結果や状態が主役の受け身は、そのまま残します。
主語の足しすぎにも、同じ目配りが要ります。行為者をはっきりさせようとして、変わらない主語を毎回くり返すと、今度はくどくなります。
> お客さまが申込書にご記入のうえ、お客さまが本人確認書類を添えて窓口へお持ちください。
同じ「お客さまが」が二度出ると、行為者が変わったのかと一瞬目が止まります。最後まで同じお客さまの動作なので、二度目は省いて「お客さまは申込書にご記入のうえ、本人確認書類を添えて窓口へお持ちください」と流せます。当行とお客さまで主役が入れ替わる場面では主語を残し、変わらない場面ではくり返さない。受け身を能動へ直すときも、この出し分けがそのまま当てはまります。
受け身か能動かで迷ったら、その文で読み手がいちばん知りたいのは「誰が動くのか」か「どうなるのか」か、を考えてみてください。次に動く人を知りたい文なら行為者を表に出し、結果を伝える文なら受け身のまま残す。案内や通知は、それだけでずいぶん追いやすくなります。次回は、同じ言葉が近くで重なって情報がぼやける同じ言葉の重複を減らすを扱います。
出す前に、さっと校正
「この使い方、合っているかな」と迷ったら、書いた文章をLINTOに貼って校正してみてください。誤字や表記のゆれ、読みにくい言い回しまで、無料でまとめて見直せます。メールを送る前、記事を公開する前、SNSに投稿する前のひと確認に、どうぞお役立てください。
この連載の記事 前の回:並列・対比をそろえる 次の回:同じ言葉の重複を減らす 文章力編の入口:わかりにくい文章の特徴と直し方 LINTO Tips の一覧はこちら。